【詩】絶情

愛してるんでしょだったら早く刺して彼女は目を腫らしてそう言った僕は虚ろな眼で首をかしげたどうしてここにいるんだろう一凍傷なぜそんなことを言うのか僕は彼女のことを一度だって愛したことがないしそれを表現したこともない突然彼女はやってきてナイフを持って叫んだ殺してとある時は優しく声をかけある時は引きつった笑いを浮かべそれでもどこか魅力的で倒錯している彼女は倒錯している少なくとも僕にはそう見えたしそれはとても心に響いた彼女はとても立体的で抽象的な絵画のようで入り込める場所と入り込めない場所そんなところに入り浸る彼女といることは快感のようなものだった刺してといまだうるさいものだからどうしたのと聞いてみれば愛してるのと優しく微笑むまだ目の腫れは引いてないしそれをどこで作ってきたのか僕にはよくわからないけれども彼女は幸せそうだニタッと笑ったかと思えば突如として形相が変わったりそんな光景を見ていると不思議と満たされる気がするそうかと僕はうなずきナイフを少しにぎって血を見せて彼女を安心させるあたたかいものが流れていくそうだよこれが僕たちなんだよと語りかけてみればあったかいねと高い声で教えてくれたそう僕たちはあたたかいのだうんそんなことも忘れて生きているんだろうか僕は僕は僕は嫌悪がうずまき景色を変える凍傷のような世界つめたいつめたいつめたい倒錯したアイデンティティ歪んで笑うニューロン分裂してゆくわからないわからないわからないどうしてここにいるんだそれはねアタシ愛してるからふうんそういうものかなまぬるい温もりに浸り続ける彼女と僕いじわるそうに笑うからいじわるそうに嗤ってやった幸せなんだろうニ果実そもそも僕は彼女を知らないどこで生まれてどんな奴で何が好きなのかとか聞いてみれば必ずこう答えるあなたを愛してるたったそれだけだ出会ってどれぐらい経ったのかそれを記憶しているほど僕にも余裕はなかったし彼女も物覚えは良くはないナイフのことをもう忘れているしどこにやったかも知らない世界のうつり方が違うからだ僕の眼が凍傷であるなら彼女の目は真っ赤な血それも鮮明というよりはちょっと黒ずんだ感じで実に濃密な真っ赤な血あまりの命の濃さに圧倒され魅了され僕は彼女を手に入れた愛情なんかじゃない愛情なんかわからないただ魅力的で美しくてだからそれを手に入れた命の濃さ絶望的な命の濃さどこまでもそれを求めていてだからそれを手に入れた彼女はどう思っていた聞いてみれば決まってこう言う愛してる抽象的な出会いに僕はとても感謝をしたし神様のようにも思うそう降ってきたんだ神様のように降りてきた濃い命圧倒的な命病棟で浮かぶ果実食べたいと思ったそしてそれを許してくれるでも僕は食べなかった真っ赤な血が怖かったのだ僕の指先を見ればわかるこんなにも青紫でまるで存在してないみたいここにあの血が混ざれば命が手に入るのかいいや押し潰される押し潰されてしまう濃い命を僕は触れないだから僕は食べなかったでも彼女は食べてほしかったきっとそれを望んでたそうじゃなきゃこんなにも愛してくれるはずがないんだ愛してる愛してる愛してる愛してる愛してるほんとうにそれを僕は確かめようが無い愛がよくわからないのだからでも一つだけ知ってるのは彼女が神様だってことだ降ってきた神様堕天使のような神様抽象画をビリビリに破いてバロック音楽にしたような神様のような真っ赤な血ほしいほしい手に入れたいと思うはじめてそう思った出会いは病室を引き裂いていく三転落心地よいあまりに気持ちがいいと感じるそうだよそうだそこ倒錯したバロック音楽の見るからに歪んだ鏡おかしいなと思えば彼女はニタッと笑って大好きだよと言ったのだけど近頃は大好きだよの後に必ず刺してと言うようになったどうしてかはわからない望んでいるようにも見えないし僕もそれを望んでいるわけじゃないただ愛してほしいのと聞けばまたニタッと笑って黙りこくるキュッと結んだ口とあちらを見ている目とほんとうに美しく感じて刺すと聞いてみれば突然アアと声にならぬ声をあげ彼女は叫び出してしまった喜んでいるのだろうか悲しんでいるのだろうか理解が追いつかない自分それにまた嫌気が差してその日はすぐに眠った夢は不思議な場所だったぬめった何かが靴底になまぬるい風が頬をなで気持ちいいけど気持ち悪い理想とは程遠い空間怖かった辛かった岩を砕くような雷置いてけぼりの僕助けてなんて言葉は知らなくてただ泣いて楽しそうな両親を見守る待っててねと言われたところで待つことなんて出来ないだろう岩を砕くような雷置いてけぼりの君怖かった辛かった転がってゆく僕は追いつけないのに追いつこうとした先へ進む彼女たち助けてなんて言葉は知らなくてただ泣いて楽しそうな両親を恨むそこで気づくことができたこれが僕の魂なんだそうこの時どこかに何か置いてきてしまったもう見つからない何かを四道化愛してるよ叫びとゆする手で目がまた覚めるどうやらこんな僕をずっと見ていてくれたらしい恨めしそうに愛されているのかと感じ僕は会釈を返したまたニタッっと笑うこんな応酬を数回やって二人で並んで寝転がったどうしてここにいるんだ彼女は僕の真似をするほんとうだどうしてここにいるんだなぜここにいるのかよくわからないもんだから一度強く頭を叩くしばらく時間が経っただろうかどうやら僕が起きなかったのは間違いないらしいということを感じる涙を流している人たちはどこから来たんだろうと思い出そうとしても誰だかもわからないし別にわからないでいいと思う思い出すとたぶんよくないということだけはわかる何も知らないことが幸せである場合は多々あると父は言っていたその通り今がそういう状況だから黙っていることにした僕ははじめて父の言葉が役に立ったことに気づくこれは愛情の一欠けらなんだろうか認めたくはないけれどうん認めないそれでも泣き続ける彼らの様子を見て思わず声をかけてしまったもう泣く必要なんかないよって感じにだそれでも聞こえていないのかまだ泣くことをやめないものだから今度は泣くなと強く言うのだけどどうやら意味はないのだと悟るこれも愛情の一欠けらそんなはずはないんだ泣くことが愛情だなんて意味がわからない笑うことが愛情だということもよくはわからないそんなことを考える僕は本当に倒錯しているなと感じてニタっと笑う実に面白い光景だ僕はダメなのだこのまま寝ているのだこうしていることがこれ以上ない幸せなのだそう気づくことで自分を納得させる様子をさらに空から見ている自分面白い実に面白い光景だと皮肉めいた口調で包み込む空気どうやら僕はダメなのだ泣くなといまだに言い続けてまた泣くことをやめるこれも愛情の一欠けらありがとうと言ってみる我ながら変な人生だったな思えば何をしたのかもよくわからないしそれでも何かを遺した気もしてだからってそれが良いものばかりじゃないのだ人間生きてれば良いものも悪いものもあるあるのだけどそれでも少しぐらいは美しく生きてみたいそれが人間なものだから僕もきっと人間だったということだろうそのことには強く安堵を覚えるし命を持つことの輝きを感じたしだから何をしたのかよくわからないと感じるどちらなんだ僕は誰なんだろうたくさんのアイデンティティ倒錯したアイデンティティそれこそが僕自身であると思うし彼女自身でもあったのだ歪んで笑うニューロンこんなものを引き継いでしまったものだから幸せな人生を送り幸せな生活を過ごし幸せに眠り続ける僕の眼は純粋か彼女の目は愛らしいか輝きは時が吸い取り続けいつか色あせてしまっただろうそんなところも人間らしくだから愛してると彼女は言い続けるそうそういうことだったのかと気づくもっと応えてやるべきだったんじゃないのかこの時はじめて後悔というものが産まれたように思う産物腹を痛めた産物まさしく濃い命のようであるし真っ赤な命のようである腫らした目を持つそれはあっという間に空間を支配して命そのものになってしまったそこに僕などはいなくてただ輝かしい生命があるだけだ一つの腫らした目その美しさに僕は魅了され取り込まれることを許したそれこそが欲しかったものだった倒錯しないアイデンティティ一つの濃い命これだけでいいのだから生きるとはたやすいものだそのまま過去へ遡れ過去は本当に良いところだとおかしな道化師が教えてくれるそんなことがあるものかと僕は反論をする当たり前だ過去にとらわれていて良いことなど何もないはずだ前に進まなければならない僕たちは前に進まなければならないそうだろうと聞き返すと彼は言うのだそれは独りよがりだ過去を大事に思う人間は蟻のようにいるそれが正しい姿だからだとらわれ苦しみ強くなり笑い憎みニタッと笑う過去は力だ過去は毒だ過去は希望だ過去は未来だ過去こそが私たちの全てだそれを否定する君はなんなのだ君こそが気味の悪い道化ではないのか何をそんなに考える何のために証明をするとらわれ続けているのは君のほうではないか現在に囚われる醜い奴を知っているか君だよ君の命そのものだだから教えてあげよう脱出するには真っ赤な濃い命を手に入れるしかない私は君を憐れんでいるよそんな姿になってしまったことをね本当は人など助けたくないんだ別にどうだっていい人を皮肉めいた笑顔にさせるそんな仕事なんてどうだっていい私は道化師だがただの悪魔のようなものだからだから君に忠告する今すぐ真っ赤な血を手に入れろチャンスは一度しかない今目覚めたその時しかない濃い命の輝き過去にとらわれる美しい世界その色こそが彼女の血そのものだとは思わないかだから私は用意した生命そのものをそうだ逃げ場を用意したんだよ彼女という逃げ場そのものは私の一部であるから君は現在を脱出することができるだろう美しき過去実に実に美しい世界なのだよ本当に大事なのは何かをおそらく知ることができるだろう見えるはずだわかるはずだ実感をすることができる忘れていたものをお前はいつ色を失ったお前の眼から目を奪った奴は誰だどこのどいつだそれを与えてやると言ってるんだだから従え従え従え絶対と言っているのだ従え従えおかしな道化師はしまいに従えとしか言わなくなったそれも数十回いやそれ以上を言い続けるもういいよわかったよと返してもまだいじめることに飽き足らないのか彼女はいつまでもそれを言い続けるのだしまいにはそれが心地よくなってしまってまた僕は別な場所へと飛んでいったような気がするこれが過去なのか現在から脱出できたのかいいや道化の言うことが正しければまだ真っ赤な濃い血を僕は手に入れてないはずなのだだったらここはまだ現在に囚われたたくさんの凍傷たちが徘徊しつづけているだけの街美しいとか輝かしいとかそんな言葉すら忘れてしまうただ羨ましいだけの存在がぐるぐると同じ場所を廻るのだとおりゃんせと歌ってみるぐるぐると回りながらとおりゃんせちょっと通してよと押され振り向くと突如愛してると聞こえてくるああ彼女も現在を知っていたらしいでもおかしくはないかなぜ現在を知っているのだ真っ赤な濃い血道化師はそれが必要だと言った命の輝き統一されたアイデンティティそれこそが真っ赤な濃い血であり彼女そのものであるのに彼女は現在を知っているなぜ現在を知っているのか真っ赤な濃い血ではないのかそうはいっても彼女は真っ赤な濃い血だ真っ赤な濃い血そのものだこれほどまでに立体的で抽象的で倒錯したアイデンティティ統一されたアイデンティティ歪んでしまった神経細胞分裂しているからこそ感じられる真っ赤な濃い血そのものの愛情欲しいほしいと思わせるのだとおりゃんせ初めて彼女の手を取ったのかもしれないとおりゃんせはかごめかごめにかわってどうやら少しだけ生温い魂の一部に触れてトーンが赤くなった僕の眼はどうやら少し腫れてきたんだろう道化師は矛盾していたのかもしれないが正しいことは確かなようだったそれほどここはあたたかいまだぜんぜん足りないけれどあたたかいということだけはすごく良くわかるこれだけの倒錯を産み出してくれた彼女に感謝をしようしばらく時間が経っただろうかどうやら僕が起きなかったのは間違いないらしいということを感じる涙を流している人たちはどこから来たんだろうと思い出そうとしても誰だかもわからないし別にわからないでいいと思う思い出すとたぶんよくないということだけはわかる何も知らないことが幸せである場合は多々あると父は言っていたその通りだ今がそういう状況だから黙っていることにした僕ははじめて父の言葉が役に立ったことに気づくこれは愛情の一欠けらなんだろうか認めたくはないけれどうん認めないそれでも泣き続ける彼らの様子を見て思わず声をかけてしまったもう泣く必要なんかないよって感じにだそれでも聞こえていないのかまだ泣くことをやめないものだから今度は泣くなと強く言うのだけどどうやら意味はないのだと悟るこれも愛情の一欠けらそんなはずはないんだ泣くことが愛情だなんて意味がわからない笑うことが愛情だということもよくはわからないそんなことを考える僕は本当に倒錯しているなと感じてニタっと笑ったいつまで寝ているんだろうかとっくに数十年は経ったしそれでも僕たちは少年少女のままだ誰かに助けてほしいわけでもなくかといって生きることを望んでいるわけでもなく宙ぶらりん言うまでもなく宙ぶらりんそれでいいのかという義務感なんかは程遠くいつまでもどこまでも流されていくような気がするおいでおいでこちらにおいで道化師のような彼女はあたたかい腕を広げて僕を迎え入れてくれるだろういつもどおり優しくて恐ろしい声をかけて僕を包み込んでくれる知っている知っているよ彼女は僕にとっての魂なんだ本当の魂なんだそれなのに僕は応えてやることができない無碍にしてしまう僕を許してくれ刺して刺していつまでそれを言っているの僕は君を刺すことなんて出来ないよこんなに愛してくれたんじゃないかよくわからないけれど愛してくれたんじゃないか本当に愛しているのならなぜそんなことを言うのなぜ刺してなどというの分かっていないのは君なんだと主張しても届かないんだろうそれでも言い続けたい問い続けたいなぜなぜなぜとずっと愛情なんてのはよくわからないけれど君にいなくなってほしくないって気持ちはわかるんだどれだけ僕が虚ろに首をかしげていてどれだけ生命とか関係とか法則とかそういうのがよくわかんなくても君にいなくなってほしくないってことだけはわかるんだ刺せってそんなこと出来るわけがないだろうだって君は僕だし僕は君なんだ分かってくれないのかと言っても伝わらないこんな悲しいことがあるか意味なんてないたとえそうだったとしてもその笑顔だけで僕は意味を悟ることができた直接はわからない意味を悟ることができたそれだけで十分だったから世界を理解することはやめたんだそうそうなんだよもう終わりだと思ってたけれどねほらそれは違ったんだよ違ったもう少しだけ僕たちは生きることができるしもう少しだけ外を見ることが出来る過去にとらわれた美しい世界それは現在そのものだったものまるで廃墟のような綺麗な構造物なんだ真っ赤な濃い命の生きた証は僕たちが昔創り上げたものなんだよそんなことも忘れてしまったから僕は悲しんでいたし彼女は笑っていたそうだから本当に本当に安心することができてなぜ存在するかわからないこの空間がどこまでも心地よくてあったかいいつまでもいたいと思うし結局離れることなんてできない倒錯したアイデンティティ統一されるアイデンティティこんなこと望んでもいなかったけれど与えられた道化の魂のように奇妙でねじれた団子のようなものでもないそうそれは君そのものだパカッと割ることで温もりを手に入れるダイジョーブ元気よく君はいってくれたねそう彼女はまるでその時だけは憧れの存在ではなく欲求の対象ではなくそういうものから外れた生臭くないものだった血でもないし命でもないもっと崇高で惹かれてしまう何か魅了されるものではなく欲しいと思うものでもないだからこそ美しく直接心に入り込んでくる大丈夫本当に大丈夫なんだろうか意味なんてないんだろうそうだとしても信じてみたいと思うしそれだけの価値があるように思えるここまでの幸せは僕は見たことがなく感じたこともなく気づいたこともなく触ったこともなく包まれたこともなくくっついたこともなく抱きしめたこともなくキスしたこともなく頭を撫でたこともない倒錯した幸せのように感じてしまったそれでも相変わらず信じてしまいたいと思ってちょっと受け入れてみることにしたよどう思われようと別にいいんだからさどこかで自戒せよという声が聞こえてそこで僕は一度眼を開けたらしい虚ろな眼を見た老夫婦はこう言ったそろそろか虚ろな眼と言ったが老夫婦はそれに負けない虚空を見つめた眼で言ったのだ冷たいと思うあまりに見ていたくないものだから僕は眼を閉じてしまったのだ道化師は胸を切り開いてこう言ったお前の眼が悪いどういうことかと聞けばお前が冷たいから人は冷たいと言ってくるこれには僕も憤慨したものだから思わず辞書で道化を殴りどのように倒れていくかを観察した道化は倒れなかったまだまだ力が足りないらしいもう一度殴るまだ倒れないもう一度殴る倒れない殴る倒れない殴る倒れないいつまでやってもそれは同じだったそんなもので彼女は倒れようとしないそれが幸せだと知っているからだ過去の道化は倒錯している現在の道化も倒錯しているしかし未来に道化はいるはずがなく彼女は本当に僕が求めた彼女だったのだろうかと悩んでしまったので僕は僕を辞書で殴ってみたがあてもなく崩れおちてしまいこのザマだ結局こういうことだ弱いんだろうあまりに弱い泣き崩れた僕を見て老夫婦は優しく頭を撫でる冷たい手で冷たい手冷たい手いいやそうは見えないのに冷たく感じてしまう結局道化師の言うことが正しかったのだと気づくそうここだニタッと笑って満足そうに彼女は僕を見つめる本当に嬉しそうだから僕は泣くのをやめた彼女の幸せは僕の幸せなのだから泣いている場合じゃない彼女が笑っているんだだから泣いている場合じゃない笑った彼女はどこまでも美しく帰ってきたと喜んだ僕は虚ろな眼をいったん閉じてパーティの準備をしたこんなにも嬉しいことがあるものか彼女が笑ったんだ満足そうに何だって用意しよう幸せだって苦しみだって憎しみだって笑顔だってあまりに楽しい現在だって全てを用意しよう今日はお祝いだ全てを用意しよう君のためにはしゃいではしゃいでそのまま壁にぶつかって僕も君も倒れてしまった頭に流れた血の色は二人とも赤かっただろうか同じように濃かっただろうか道化師は心から嬉しそうにこう言ったアイシテル僕はそれを聞いてあまりに嬉しくって手にナイフを持ったのだ五倒錯本当にこれで良かったのだろうか嬉しいから僕はナイフを持ってその場に立ち尽くした彼女の望みはまだ叶っていないけれどそれでも今すぐ訪れる夢のような瞬間にその腫れた目はますます腫れ上がり期待に胸を膨らませている様子が見て取れるああもうすぐ解放されるんだという気持ちそれは僕が求めていたであろう気持ち彼女が代わりに叶えてくれるのなら僕はそれでもいいなと思ったけれども本当にこれで良いのだろうかまだ完全には信じることができなかった僕の様子を見て彼女の様子は見る見る変っていったさしてさしてニコニコしながら囁く彼女だけれど今回は笑ってはいない物すごい力を感じる目ここまで僕が何かを感じることなどあったのだろうかと道化の大好きな過去を見返しても何も見つからないようだった途端に恐怖に襲われる人生って何だったんだろうどうしてここにいるんだなぜそんなことを言うのか僕は彼女のことを一度だって愛したことがないしそれを表現したこともないそうそうだったはずなのに僕はここまで彼女を愛してしまって今これほどまでに彼女のことを求め続けている倒錯したアイデンティティ引き継がれた歪みもし彼女がそれを修正してくれるのだったら僕は何だってしよう揺らいだ心は美しい壊れそうな心は美しいそう思うことで僕は自分自身を保ってきてだからこそ老夫婦に頭を撫でられたのだだからこそ道化と出会うことだって出来たのだこれは何かを遺したということではないのか突如として湧いてきた自信それはどこまでも僕を高揚させたこれまで味わったことのない突き抜けるような快感そうだこれだ求めていたものはこれなんだとあのころ味わった本当の彼女を思い出したような嬉々とした目で僕は自分自身の手を見返すナイフだナイフを握っているこれから僕はこれでなにをしようというのだ自分で用意したわけではない自分の意思であるはずもない僕はなぜこの場所でナイフを握っているんだそう感じてしまっては仕方がないとまた道化はニタッと笑うほらこう優しく僕の手を握った彼女は驚くほど熱かったあまりに熱すぎて手を離そうとしてもそれを許してはくれなかったから僕はその場で泣くことにしたたくさん泣いて泣いて泣き崩れてなんで何でなんでとたくさんの涙を流し場を冷やそうとしたけれどそれは無意味でだからまた泣いた毎晩毎晩握りつづける熱い手を何とかしてやろうと泣いて泣いて泣き崩れて泣けなくなった時には彼女は隣に座っていたやせこけた頬を僕にすりつけて慰めるように隣に座っていた僕はなぜ泣いていたんだろうとあらためて地面を見据えた彼女はこんなにも優しかったのだこうして手をはねのけようとした僕の隣に座り心配そうに顔をのぞき込んでいるほらここだよとキスをして求めるものを差し出してくれるどこまでも心配性でどこまでも愛してくれてどこまでも僕のことに付き合ってくれて本当に優しかったのだ手を何度はねのけてもはねのけられるということさえスキンシップのように感じ嬉しそうに舌を巻いて耳を舐めてくるどこまでもいつまでも優しかった彼女を僕はもう一度見つめ返して愛情ってなんだろうと聞いてみたこうと手を握る今度は熱くなんかなかった心地よいぬくもりきっとこういうことなんだと泣き腫らした目で互いに視線を合わせず僕たちは座っている安心するということ慰めあうということ似ているようで何だか違うのかなと初めて気づいたような気がして少しくすぐったかった知っているよこれが愛情なんでしょうそう聞いても彼女は返してはくれないだってわかりきっているんだもの何度も愛してると言い続けた彼女のことだもう何も言うことはないんだろうその様子を見て僕は本当に嬉しかったありがとうという言葉は彼女には伝わらないそれでも感謝をしていたし何かしらお礼をしてあげなきゃと考えていたいったい何をしてあげられる指輪ケーキそれとも大好きな辞書をお見舞いしてやろうかそんないたずらまで思いついてしまったものだからこれは駄目だなと思ってまた考え直すことにしたうーん何がいいかな似合う眼鏡がいいかな本当に目が素敵だからそれとも似合う帽子がいいかなそれを本当に好きそうだからうーんうーん挙動不審になってしまった僕を見て彼女はこうつぶやいたコレああそれかそうかそうかすっかり忘れていたが彼女は倒錯していたいや倒錯していたのは僕の方だったのかもしれないもうそんなことはどうでも良かったそれほどまでに僕は倒錯していた歪んだアイデンティティありがとうという言葉の隙間などみじんもない神経伝達回路そうなんだよねそう出来てしまったから仕方ないんだよねそう言って彼女のほうに顔を向けるといつもどおりニタッと笑ったこれだよこれこれを待ってたんだと嬉々として僕は喋りだしたありがとう愛情っておかしなものだったけどとても濃くてあたたかくてだから嬉しくて喋りかけてるよ時おりあまりに頭がいたくなって思わず叫んでしまったりもしたけど本当に美しいなって感じたから僕は経験をすることができた感謝とかそういうことじゃなくってただ伝えたいだけでだって伝わらないでしょだからこうして繰り返すんだ愛してる愛してる君もそうだったんだよねだから繰り返していたんでしょ知ってる知ってるよ怖いから繰り返していたんでしょでももう君は目を腫らしていないうん抜けたから知ってる知ってるよ僕はもう大丈夫なんだよ怖くないし安心したっていい道化なんかもういないんだから大丈夫大丈夫なんだよほらこっちを見て目をつむってうんありがとうもう怖くないし安心したっていい道化なんかもういないんだからだから繰り返していいんだよ愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる彼女は本当に嬉しそうだったその顔を見たら僕もまた嬉しくなったおいでおいでと声をかけゆっくり肩に手をかけるどれぐらいの時間が過ぎただろうもう元号ぐらいは変ってるんじゃないか老夫婦はいなかったんだろう滲むような世界でずーっとこうしていたいずーっとずーっとそれが叶わないことは知っていてもこうしていたいずーっとずーっとほら僕の手はあったかいでしょうこんなにもあったかくなったでしょうアア突然彼女は僕の手をはねのけるなぜなぜ問い続けても分からなかったけれど様子を見て気づいてしまった熱そうにしているとても熱そうにそうだったのかと思い途端に黒目が開いた気がした彼女の眼が腫れている恐ろしいばかりに腫れているこんなこと望んではいなかった彼女はあまりに冷たくなりすぎてしまった理由はわかってる僕のせいだ全部僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ信じられない奇声耳をふさいだけれどそれは間に合わなくて僕の耳は聞こえなくなった思わず倒れこんで僕は下から助けを請うように上目遣いで道化を見上げる泣いている彼女は泣いている大きく眼を見開き真っ赤に眼を腫らし泣いているどこまでも泣いて泣いて泣いて泣き崩れるほど泣いている僕は心がしめつけられるような気がした彼女をこんなにしてしまったのは全て僕のせいなのだ何もかも僕のせいなのだ僕のせいだ僕のせいだがまた頭に渦巻きだしてしまったものだから頭をぶつけることにした地面に何度もなんどもぶつけることにしたごめんごめんごめんなさいごめんなさいと何度もなんどもぶつけることにした再び見上げれば彼女はまだ泣いていたでもいくぶんか優しそうな涙だったまだ眼は腫れているけれど事実をさとったような眼をしていた僕の虚ろな眼とは違う優しそうに涙を流しながら首をかしげているそうして一歩一歩近づいてきた何だ許してくれるのかと彼女を見たけれど特にそういう感情は流れてこない別に何とも思っていないのだ彼女が泣いていたのは熱いからでもなく冷たくなったからでもなく僕があたたかくなってしまったことに泣いていた僕が冷たいことに彼女は僕の感じるあたたかさを感じとっていたただそれだけのことで立場が逆になったとしても彼女のほうも時間が経てばわかってくれるはずだそうして彼女の倒錯の整理を少し待つことにしたその間もゆっくり近づいてくるけれど恐怖なんか感じない愛することを僕は知ってしまったのだ殺してほしいと訴える彼女だけれどそれは愛情だったんだろう歪んでいる神経細胞それでもあまりの優しさに僕は彼女を受け入れたし彼女は僕を受け入れたんだ今ではそれで良かったと思えるんだからそれでいいんだろうさ時間の経った彼女は美しかった冷たいあまりに冷たい微笑ここまで美しいものかと見とれ頭を撫ででみたらネコのようにくっついてくるぬくもりなんかないよぬくもりと感じているそれは依存だそうだからそれでいいんだあたたかい本当にあたたかい彼女はまた声をあげたあなたを愛してるゆるしてあげるそうそうなんだよね僕は彼女のことを一度だって愛したことがないしそれを表現したこともない突然彼女はやってきてナイフを持って叫んだ殺してとある時は優しく声をかけある時は引きつった笑いを浮かべそれでもどこか魅力的で倒錯している彼女は倒錯している少なくとも僕にはそう見えたしそれはとても心に響いた彼女はとても立体的で抽象的な絵画のようで入り込める場所と入り込めない場所そんなところに入り浸る彼女といることは快感のようなものだった刺してといまだうるさいものだからどうしたのと聞いてみれば愛してるのと優しく微笑むまだ目の腫れは引いてないしそれをどこで作ってきたのか僕にはよくわからないけれども彼女は幸せそうだニタッと笑ったかと思えば突如として形相が変わったりそんな光景を見ていると不思議と満たされる気がするそうかと僕はうなずくナイフを少しにぎって血を見せて彼女を安心させるあたたかいものが流れていくそうだよこれが僕たちなんだよと語りかけてみれば微笑んでくれてあったかいねと高い声で教えてくれたそう僕たちはあたたかいのだうんそんなことも忘れて生きているんだろうか僕は嫌悪がうずまき景色を変える凍傷のような世界つめたいつめたいつめたい倒錯したアイデンティティ歪んで笑うニューロンどこまでも分裂してゆくわからないわからないわからないどうしてここにいるんだそれはねアタシ愛してるからふうんそういうものかなまぬるい温もりに浸り続ける彼女と僕いじわるそうに笑うからいじわるそうに嗤ってやった幸せだったんだろうだから僕は彼女のことを精一杯受け入れることにした理由だって幸せなんだもの嬉しいんだものこうして話すことができてこうして触れ合うことができてこれ以上のことってないだろう本当に本当に嬉しいことだから僕は彼女のことを受け入れることにする六幸福雨が降るいつまでも雨はフル消えない音変らない音こうまでして状況を保存してくれるのだから僕はありがとうと言うことすら出来ないあたたかい関係はいつまでも続く一生つづけていくだから時も血の繋がりも倒錯を続けてしまいには壊れていき今日のような雨の日を迎えるのだいつまでも水の音しかしない雨じとじとと降り続く雨がフル今日はとても気持ちのいい一日だ上を向いている彼女に僕はつぶやくそうだねと言うかのように彼女はゆっくり眼をシタに向けるあたたかいあたたかいから今日はこうしていよう倒錯した日常倒錯した世界倒錯したアイデンティティ倒錯した彼女あたたかい本当にあたたかいからこうしていることができるし雨の日だから幸せなんだなと思う彼女は言った愛してると僕も今は言えるだろう愛してるとただ悲しいことにその言葉は今は届かないつめたくなってしまったから僕のせいいいやどうでもいいよそんなこと知ったこっちゃ無いさそんなこと彼女は彼女で僕は僕なのだから恐れることなどないのだから僕はここでこうしているのだシタを向いた彼女の前にひざまずくような姿勢で上を見上げているのだ倒錯した関係性これでいいんだと思うこれが僕の望んでいたであろうことだから愛を知る幸せを知るその形が結局のところこれだったんだろう見下されるわけではなく卑下するわけではなく中立でありながら自然となされる関係いやただの風景と言って良いのかもしれない雨の降る音オトばかだなぁ音なんて聞こえないんだから静寂の中でわずかな水がドアの隙間から流れてくるんだだから知っているんだよ雨が降っている世界なんてそれぐらいの認識でいいだろうだってここには彼女がいるんだものほら泣き腫らした眼でこっちを見続けているよ私はこれでいいと知っているから彼女はずーっとそのままで立っている立ち尽くしている幸せが何であるかをきっと知っているんじゃないかなこちらを見て首をかしげている美しい本当に美しい真っ赤な濃い生命真っ赤な濃い血は僕にうつってしまったんだろうか本当に彼女は冷たくなってしまったんだろうかそんなことを認めたくはないけれど彼女はこうして僕を見続けたままなのだこれで良かったのだろうか終わったことだけれど考え続けてしまう僕はいくぶん優しくなってしまったのかもしれないこれでいいこれでいいんだよと老夫婦の声が聞こえた気がした七絶情愛してるんでしょだったら早く刺して彼女は眼を腫らしてそう言った僕は虚ろな目で首をかしげたわかったよ優しそうに声をかければ彼女はニタッと笑い本当に満足そうで嬉しそうな表情を見せたすると今度は彼女のほうが虚ろな眼で首をかしげたように見えるはじめてのコミュニケーション幸せは構築されるそうして僕はこのやわらかい下腹部にナイフをゆっくりと入れることにしたのです

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